Category: Books

Carolyn Porter / Skyhorse Publishing / 2017年

2015年にこのブログで P22 Marcel という書体を紹介した。この書体はあるフランス人男性が書いた手紙の筆致から起こしたものなのだが、フォント制作者のアメリカ人女性はこのフランス語の手紙の内容がどうしても知りたくなった。なぜならこれは、第二次大戦中にドイツからフランスへと送られたものだったからだ。その手紙が、なぜミネソタのアンティークショップで売られていたのか。この手紙を書いた男性は、受け取った人は、その後一体どうなったのか。この本は、それらを調べた顛末を記したものである。Amazon では200件以上ものレビューが付いており、かなり好評だったようである。

興味はあったものの、この本はいわゆるタイポグラフィ本ではないので、筆者の Amazon カートの「後で買う」リストに長年放置されていた。しかしたまたま最近覗いてみたところ、データのミスなのかなんなのかなんと「393円」となっており、しかも残り1冊だったので「まあ買うか」とポチっていま筆者の手元にある。小口がアンカットでクラシックな雰囲気があってよい。ただ筆者は英語が大して読めない。この Marcel 氏の運命を知ることができるのがいつになるかは知る由もない。ひょっとしたらそのまま古書店へ流れる可能性もある。そしてたまたま手に取った人が興味を持つ事になれば、それもまたおもしろいだろう(そうか?)。

ちなみに本日7月14日はパリ祭(フランス建国記念日)だそうである。そんな日に届いた事にちょっと縁を感じる。

カレン・チェン 著,白井敬尚 監修,井原恵子 翻訳 / グラフィック社 / 2021年

かなり詳細に書かれた欧文書体デザインの教科書。ちょっと見ないレベルで詳解された書籍を見つけてしまって興奮冷めやらない。とにかく、すごくすごい(語彙力)。アルファベット(ラテン文字)を約物を含めて1文字1文字、しかもセリフとサンセリフに分けて詳細に図解している。著者はフォントこそ作ってないようだが(見つからず)、シアトルのワシントン大学で教鞭をとっている。つまり「教えることのプロ」であり、そういう方が書いただけあって非常に細かく解りやすい。フォントを作ってみたいと志す方は、ぜひとも入手しておきたい一冊である。惜しむらくは邦題がちょっと本題とズレてる感じがするところ。素直に「タイプデザイン」や「フォントデザインの教科書」とかでよかったんじゃないかと思う。それとも表紙の「designing type」は実はタイトルとして生きてるのにネットショップのデータ上は無視されてるんだろうか…。訳者は先日紹介した『レタリングマニュアル』と同じ方。

ケン・バーバー 著,井原恵子 訳 / BNN / 2021年

アメリカのデザインカンパニー House IndustriesKen Barber によるレタリング教本。フォントを多数制作している同社のノウハウをふんだんに紹介している。書体のカテゴリー別に特徴を事細かに解説し、またデジタル化する際のアウトラインの取り方のコツなどもある。作例は同社の得意なレトロアメリカンテイストでちょっと好き嫌いが分かれそうだが、レタリングに関する普遍的な事はしっかり学べるようになっているので食わず嫌いは良くないぞ(笑)。彼らとて無からアイディアが湧いてくるのではないようで、日頃から古今の文字デザインを集めており、それらを組み合わせたりアレンジしたりして制作しているようだ。やはり日々の積み重ねというのは大事だなと思う。

シュテファニー・ヴァイゲレ 著,朝倉紀子 訳 / ビー・エヌ・エヌ / 2021年

タイポグラフィではなくカリグラフィーの本だけど紹介。カリグラフィーのカッパープレート体に特化した教科書。ドイツの Stefanie Weigele さんの著した『Spitzfederkalligrafie』の日本語版である。最近はこの書体のバリエーションであるモダンスクリプトに関する本はよく出ているが、トラディショナルなカリグラフィーに関する本が出るのは久しぶりである。殊にこの本はカッパープレートのみの教本で、おそらく和書では初じゃないかと思う。そういう意味で貴重な本である。大抵の本は文字を一覧で掲載して「これこの通り書け」みたいにちょっと不親切だが、この本は文字ごとに懇切丁寧に解説されており、大変参考になる。この書体は初心者にはなかなか厳しいが、トライしてみる価値はあると思う。本そのもののデザインも美しい。とにかくオススメ。

サイモン・ガーフィールド 著、 田代眞理、山崎秀貴 訳 / ビー・エヌ・エヌ新社 / 2020年

様々な欧文書体に関するコラム集。日本語を含め14ヶ国語に翻訳されているというベストセラーである。33本の各コラムにはテーマとなる書体がひとつあるが、本文中にはそれに関する書体も多数紹介されているので、「何についてのコラム」とは言いづらいが、Comic Sans や Gill Sans、その他有名どころの書体にまつわるエピソードが詳しく書かれており、単純に読み物としてもおもしろい。多分フォントマニア以外にも楽しんでもらえると思う。本文中の書体名はその書体で組まれており、字面の大きさの違うフォントをバランス良く組むのは苦労したと想像する。担当したコントヨコさん、お疲れさまでした(笑)。

著者名を見ると、某フォークデュオを思い出すのは私だけだろうか…。

小林章 / Book&Design / 2020年

Monotype タイプディレクター・小林章氏による『欧文書体』シリーズ?第3段。これまでのものは選び方、使い方に関するものだったが、今回はとうとう「つくり方」である。レタリングやタイポグラフィに関する本は数あれど、書体づくりのハウツー本は洋書でもほとんどない。また’80年代ぐらいまではレタリングの本も見られたが、ここ40年ぐらい錯視調整まで言及した本格的なものはほとんど出てないと思う(桑山弥三郎さん以来?)。せいぜいがカフェの黒板メニューの書き方ぐらいじゃなかろうか。それを思うと、かなり貴重な本となる。ぜひ手にとって、現役で第一線で活躍している著者の技を盗んで欲しい。

Hannah Haeusser, Maximilian Borchert 著 / Verlag Hermann Schmidt / 2017年

ドイツ語でのみ用いられる文字 “ß”(エスツェット)だけにフォーカスした変態本(笑)。400もの書体の ß ばっかりを集めた本で、右ページに巨大な ß を一文字だけ、左ページにその書体の解説(英語)がある。一応解説文はその書体で組まれており、小さいながら主要文字の見本も付いてはいて、一応見本帳の体(てい)をしている。文庫本サイズだが、本文組の見本としてはまぁ十分だろう。しかしなんでまぁこんな本を思いついたのやら…。ちなみに ß は18世紀頃までは使われていた s の異体字・「長い s」と呼ばれる ſ と s の合字であり、つまり s がふたつくっついてこんな形をしているので、ß が出せない場合は「ss」と綴るのが正しい。決してギリシャ文字の β(ベータ)ではないので注意。

エミール・ルーダー(著)、スミ・シュミット(訳)、ヘルムート・シュミット(監修) / ボーンデジタル / 2019年

スイススタイルのタイポグラフィを世に広めた名著。本書は1967年にドイツ語・英語・フランス語併記で出版され、以来ずっと金字塔的な扱いをされている本である。それが出版から半世紀の時を経て、やっと和訳された。筆者は原書を持っているが、英語に不慣れで当然ながらちっとも読んでない(笑)ので、何がどう名著なのかはよく知らない。ちなみに原書は紙の取り都合のせいかどうか知らないが、一時期長方形で出版されていた時期もあった。今は出版当初の通り正方形になっており、日本語版もそうなっていて嬉しい(なんのこっちゃ)。なかなか値の張る本だが、タイポグラファを志すなら一読しておいた方がいいと思う。

ちなみに監修者のヘルムート・シュミット Helmut Schmid さんはポカリスエットなどのロゴをデザインした日本在住のデザイナーであったが、この本の完成を待たずに昨年急逝された。ご冥福をお祈りいたします。

スティーブン・コールズ 著、田代眞理 訳、akira1975 監修 / ビー・エヌ・エヌ新社 / 2019年

2012年に出版された The Anatomy of Type: A Graphic Guide to 100 Typefaces の日本語版。著者が選んだ主要な100書体について15のカテゴリーに分類し、詳細に図解した本である。書体の中から特徴的な文字をピックアップして超拡大し、そのポイントポイントを解説している。男の子は昔懐かしい「かいじゅうずかん」などを思い浮かべていだければいいだろう。書体の由来や効果的な使い方、似ている書体などなども。初心者にはもちろん、日頃使い慣れている人も、今一度見直してみると新たな発見があるだろう。オススメ。

小林章, 田代眞理 / ビー・エヌ・エヌ新社 / 2019年

日本の街なかにある英文のサイン(標識)を正しく見やすいものにしよう、というガイドブック。この本でいう「デザイン」は本来の意味の「設計」に近く、とにかくまずヘンな英語をやめよう(笑)というのにたくさんのページを割いている。まずそこからかよ! というのはなんだか嘆かわしくなるが、とにかくネイティブの人にとって「?」という英語がかなり氾濫している状態はちょっと悲しい。ちゃんとした翻訳者をアサインできない仕事がどれほど多いかという事でもあるだろう。かくいう筆者も、地元のとある中古車販売店のサイトを作る時に困った事がある。そこは米軍関係者を主に相手にしており、そういった方面の手続きを素早くできる事を強みとしていたが、その事をその店では「ミリタリーサービス」と呼んでいた。サイトは全部英文だったが、それをそのまま Military Service(=兵役につく事)と表記したら多分かなりの誤解を生むだろうと思い、何度か元請けに確認をお願いした記憶がある(結局どうなったかは忘れたし、そのサイトももうない)。

話が逸れた。えー、あとはもちろん書体選びや文字組みなどについて述べられている。もう20年近くドイツに住み、世界中を飛び回っているタイプデザイナーが言う事なのだから、これほど確かな情報もないだろう。派手さはなく地味な事ではあるが、こういった「基礎」はちゃんと身につけておいて損はない。欧文書体を「飾り」として使うだけではなく、ネイティブの人が見てちゃんと「伝わる」ようにしたいデザイナーは必携。